図書館利用のメリット

 

山口 喜一郎(中央図書館)

 

 みなさんにとって図書館を利用するメリットとは何だろうか。たとえば20年後、そのメリットが活かされるとすれば、学生時代にこの図書館ですばらしい本にめぐり会うことにより、間違いなく職場や家庭生活の中で活かされるだろう。文部科学省の最新の答申では、キーワードとして、10年後の日本社会は「知識基盤社会」である、としている。知識という言葉は何かバイアスがかかってしまうので、知性という言葉の方が好きであるが、いずれにしても深い識見が重視される時代へと徐々に変化してゆくと予想されている。そのために、来るべき時代に対する私たちの「備え」とは、「今」という時代、できるだけ多種多様な知識を吸収するため様々なジャンルの本に挑戦することではないだろうか。

 

出版不況が続いているものの、出版点数は年々増加しているという摩訶不思議な状況となっている。書き手が多く読み手が少ない、カラオケボックスのようだと指摘する文化人もいる。しかし点数が多いということは、良書の点数も確実に増えてきていると、時折都内の大型書店に行ったときなど、時間を忘れて読み耽る自分は、そういう実感をもっている。

 

 本に焦点が当てられると踏んだからこそ、いかにみなさんに適切な本とめぐり合わせるかということのために、私たち図書館スタッフはこの4年間多くの改善をしてきたつもりである。その結果、みなさんが利用したくなるようなコーナーを次々に新設・増設してきた。そのいくつかをランダムに紹介したい。

(1)エンカレッジ文庫・ディスカバリー新書:現代は「文庫・新書の時代」といわれ、多くのシリーズが創刊された。それに対応して創価大学らしいこのような名称を冠し、継続的に購入するようにした。当初設置した書架ではスペースが足りなくなってきているので、近々増設する予定である。それほど年々増加しているということ、また、最も創大生に利用されている図書でもある。

(2)書評図書:毎週一般紙(朝日・読売・毎日・産経・東京・日経新聞)の日曜版に掲載されている書評を切り抜き、書評に対応した本を1階閲覧室に毎週展示している。新聞に掲載されている書評は一般的にいって質が高く、皆さん方にとってよい水先案内人の役目を果たしてくれている。毎週そのコーナーをチェックする人が増えてきているのが嬉しい。今後他の新聞の書評を展示する計画もある。

(3)入門書:高校から大学に入るやいなや、いきなり専門科目を勉強しなくてはならないが、そのアウトラインを把握するために必要な図書として入門書で必要なものはすべて取り揃えている。このコーナーも中々人気のスポットである。

(4)新着図書:日々出版される教養・学術的な図書については70%程度が出版日にこの図書館に到着している。それらをスピーディに整理し、遅くとも10日後には1F閲覧室に展示している。昨年度は48回展示し、その合計冊数は約2万冊に及んでいる。皆さん方にとって大事なことはできるだけ多くの種類の良書を直接手にとってページを開いてみることでだが、本学の立地条件では都市部の大書店へはなかなかいけないと思い(余談だが、もし行くとしたら絶対丸善丸の内店がおすすめである)、大書店と比較してそれほど見劣りのしないよう、品揃えとスピーディであることに拘って配慮したつもりである。

(5)映像資料:「百聞は一見にしかず」とあるが、確かに良質の映像資料はとても良い。著作権の関係で館外貸出をすることはできないが、館内で利用できる効果は高い。特にオススメは、NHKスペシャルの各シリーズだろう。NHKの番組制作費の大半がこのシリーズに注ぎ込まれているのでは、と思えるほど充実している。いずれもが必見である。

(6)洋書ペーパーバック:このコーナーには大手書店で売れているペーパーバックを置いている。ペーパーバックを読了することにより英語力を飛躍的にアップさせることができる、との評価を踏まえコーナー設置を図った。電車の中や一日少しでも読み進めてゆき、1年間で1冊でも良いと思うが、是非挑戦してみてはどうだろうか。

 

 以上のような図書のコーナーを設ける一方、読書・学習環境を同時並行で充実させてきた。図書館は単に本や雑誌があれば良いという問題ではない。図書館がいかに心地良い空間であるかを重視してきたつもりである。ブラウジングルームにソファを増やし、長年指摘されてきた閲覧室のガラスの大清掃を行い、勉強で疲れた頭脳をクールダウンしてもらうために音楽CDを増やしてきた、など館員やみなさんからの意見・要望を取り入れてできる限りのことはしてきた。また、入館してきた際にフレッシュになってもらえるよう数日おきに花をカウンターに置いたり、ブラックボードで親近感溢れる日々のメッセージ等々、まるで民間企業のようなサービスを展開してきた。このようなオーガニックというか五感に心地よいサービスは、もっともっと充実してゆきたいと思っている。夢想に近いが、2階ブラウジングルームは熱帯植物園的にしたいし、館内にはせせらぎが流れ、4階閲覧室の天上は夜間になると星が出る・・・、このようなプランはあながち夢だとは言い切れない。何年先になるかわからないが新しい図書館が創られるときには一つでも実現したいと思っている。リップサービスではなく、こうした構想で図書館デザインを考えることはとても大事ではないかと真剣に思っている。

 

 話しを元に戻そう。図書館利用のメリットは、何も20年先ではない。今日という日であっても実現できるのである。生涯の良き友を一日で見つけるのは難しいが、生涯の友となる良き本には今日出会えることができるかも知れない。みなさんはまだ若いから“深遠な思想の持ち主”、と評されることはあまりないだろうが(決め付けてもうしわけないが)、かけがえのない一書に出会うことにより、そのような人に一歩近づくことができる。

 

 結論として2つをあげておきたい。①高度情報化社会といわれる現代、情報リタラシーの必要性が叫ばれているが、もっと基本的なリタラシー、つまり本を難なく読めるという力を身に付けることこそが大事ではないだろうか。本を読み、その内容が理解できる、更には論ずることができるようになるまでは悪戦苦闘の日々であり、そのようなプロセスを経て、ようやく一人前の人間になるのである。人間的に成長するということはこのようなことを言うのではないだろうか。②創価大学のキャンパスの中で、図書館という環境は少し特殊といえると思うが、少なくとも2日に1回は訪れる習慣を身に付けてはどうだろうか。大学の中で何かを確実に発見できる場所は、図書館だけである、と少し強調しておきたい。あなたの運命を決する書物に会える日がきっと来ると思うから・・・